日本の教育現場における長時間労働が、社会問題となっています。令和6年の教職員を対象に行った全国調査(※1)では、過労死ライン(月80時間)を超える残業時間の教職員が16.1%。その背景には業務環境の課題が考えられ、GIGAスクール構想により一人一台端末を実現した一方で、教職員のICT環境整備は依然として進んでおらず、校務の効率化も図れていないのが現状です。
この状況を受け、文部科学省は令和7年1月に「学校のICT環境整備3か年計画(2025~2027年度)」(※2)を発表、「業務用ディスプレイ」の1人1台整備を明記しました。これは、教員の業務環境が整っていない現状を示す裏返しであり、校務DXを加速させるための具体策とも言えます。
そこでマウスコンピューターは、大阪教育大学との共同研究「液晶ディスプレイ導入による校務効率化の効果検証」を実施。この記事ではその成果を紐解きながら、教育現場におけるICT環境整備の重要性と校務DXの効果を探ります。
※ 製品の情報や価格は2025年10月14日時点の情報となります。
※1 令和6年度 全日本教職員連盟 全国調査 「教職員の勤務環境に関する実態及び意識調査2024」
※2 文部科学省:「学校のICT環境整備3か年計画(2025~2027年度)」
- 教育現場の働き方を変える「校務DX」——ICT環境整備が解決のカギになる?
- マルチディスプレイ環境下では生産効率が42%も向上する
- 液晶ディスプレイ導入による校務効率化の効果検証 概要大阪教育大学×マウスコンピューター
- 【検証結果から紐解く】見えてきた教育現場における課題と校務効率化の必要性
- 液晶ディスプレイ導入で95.8%が校務の効率向上を実感、校務DXの有効な一手に
- 効率化だけに留まらない、液晶ディスプレイ導入のメリットとは?
- 効果検証をしたからこそわかった導入の課題
- 小さな校務DXの積み重ねが教育現場の働き方改革と教育の高度化につながる
教育現場の働き方を変える「校務DX」——ICT環境整備が解決のカギになる?
冒頭でも述べた通り、全日本教職員連盟が実施した「教職員の勤務環境に関する実態及び意識調査2024」では「1日平均で4時間以上の残業がある」(1か月換算すると過労死ラインを超える残業時間水準)と回答した人の割合が16.1%にのぼっています。
その他にも国が行った「教員勤務実態調査(令和4年度)」(※1)によると「教諭」の平日1日当たりの在校時間は小学校で10時間45分、中学校で11時間1分。さらに自宅に帰って仕事を行う「持ち帰り時間」を合わせると、仕事をしている時間が小学校で11時間23分、中学校で11時間33分とその過酷な現状が伺えます。

平成28年度と比較すれば減少はしているものの、長時間であることに変わりはない。
出典:「教員勤務実態調査(令和4年度)集計【確定値】」(文部科学省)
そこで文部科学省では、教育現場における教職員の働き方改革を一つの目標に、校務DXを推進しています。
校務DXとは?
校務DXとは、GIGAスクール構想下における教職員の働きやすさと教育活動の一層の高度化を目指して、学校運営に関わる業務効率化のためのICT環境の整備を進めていくDXの概念の一つです。
校務DXというと校務支援システムのクラウド化や、校務・学習系ネットワークの統合など、大規模なシステム導入などをイメージしがちですが、実は現場レベルでのICT機器の導入整備も必要とされています。GIGAスクール構想によって児童・生徒の1人1台端末が実現されたことで、教職員のパソコンを使用した業務も増加傾向にあり、長時間労働問題に対してICT環境整備によるパソコン業務の効率化は有効な一手と言えるでしょう。
※1 文部科学省:「教員勤務実態調査(令和4年度)集計【確定値】」
マルチディスプレイ環境下では生産効率が42%も向上する
一般的な企業におけるパソコン業務効率化の比較的低コスト、かつすぐに取り組める方法のひとつに、ノートパソコンと外付け液晶ディスプレイの併用が挙げられます。2017年のJon Peddie Research社の調査(※)によると、マルチディスプレイの活用は最大で42%の生産性向上が可能であると発表されています。
マルチディスプレイ環境における影響/効果の研究
・情報処理学会論文誌の掲載論文「大画面ディスプレイ・多画面ディスプレイの導入による業務効率化の測定」(2009年)
17型ディスプレイ1台から17型ディスプレイ2台のデュアルディスプレイ環境にしたことで、作業時間が13.5%削減された。
https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/record/9260/files/IPSJ-JNL5003028.pdf
・米国ユタ大学の研究
シングルディスプレイからデュアルディスプレイに切り替えた場合、テキスト編集作業で生産性(処理速度)が44%向上し、表計算作業でも29%向上したと報告されている。
https://i.dell.com/sites/doccontent/shared-content/data-sheets/en/Documents/CSG-EN-XX-ALL-Dual-Monitor-Productivity-Whitepaper.pdf
・ジョン・ペディ・リサーチ社の調査
複数ディスプレイを活用することで平均42%の生産性向上が確認され、特に資料参照やマルチタスク作業において効率化効果が高いと報告されている。
https://www.jonpeddie.com/news/jon-peddie-research-multiple-displays-can-increase-productivity-by-42/
上記研究や調査結果のように、マルチディスプレイ環境下における業務効率化の効果は多数確認されています。一方で教育現場においては、未だにノートパソコン1台で作業するケースが多く、複数資料の同時参照やオンライン会議の画面共有など、複数ディスプレイによる効率化が可能な場面は数多くあるでしょう。文部科学省においても「学校のICT環境整備3か年計画(2025~2027年度)」内で教員1人1台の業務用ディスプレイ整備を掲げ、地方財政措置を講じました。

出典:「学校のICT環境整備3か年計画(2025~2027年度)」(文部科学省)
ただし最終的な導入の判断は各自治体に委ねられています。そこで導入検討を後押しする参考材料として、マウスコンピューターは大阪教育大学と共同でディスプレイ導入の効果を検証しました。ここからはその成果をもとに、ディスプレイ導入による校務DXの実効性について確認していきます。
液晶ディスプレイ導入による校務効率化の効果検証 概要
大阪教育大学×マウスコンピューター
検証の概要
実施主体:大阪教育大学 株式会社マウスコンピューター
対象校:北海道・長野・大阪の小中学校10校
方法:アンケート(回答者24名)+ヒアリング
検証に用いたディスプレイ「ProLite XUB2497HSN-B1」
| パネル種類 | IPS方式パネル(ノングレア) |
| サイズ | 対角:60.5cm(23.8型) 16:9 |
| 信号入力コネクタ(デジタル) | USB Type-C(Alt Mode・PD65W_e-marker対応) × 1 / HDMI × 1 / DisplayPort × 1 |
| 昇降機能(高さ調整) | 可動範囲 上下150mm |
| ピボット機能(画面縦回転) | 左右回転各90° |
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ProLite XUB2497HSN-B1
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この液晶ディスプレイは上下150mmの範囲で高さ調整ができます。また、左右に90℃回転させることができ、縦型の画面で利用することも可能です。パソコンとディスプレイをUSB Type-Cケーブル1本で接続すると、映像出力、パソコン本体への給電(最大65W)、有線LANネットワークの接続、USBハブを介した周辺機器の接続ができます。
※ 製品の情報や価格は2025年10月14日時点の情報となります。
【検証結果から紐解く】見えてきた教育現場における課題と校務効率化の必要性
今回の効果検証では、北海道木古内町、長野県飯山市、大阪市の小中学校10校が協力していますが、調査結果を見てもやはり長時間労働問題は顕在化しているようです。

また授業時間を除いたICT機器(パソコン・タブレット)の使用時間を尋ねた質問では、回答者の91.6%(22/24人)が3時間以上と回答、その中でも9人が6時間以上と回答しました。

これは学校や自治体によっても違いはあると思いますが、仮に授業を1コマ50分、1日6コマだとしたら1日当たりの授業時間は5時間、それとは別で5時間以上ICT機器を使用して業務をされている方が12人もいらっしゃるということです。実際に教職員の皆さんのIT機器全般の校務における活用に関するコメントでも、「IT機器の使用場面が増えているため、新しく使いやすい機器の導入が効率化に不可欠である」「効率化を図る上で必須であると考える」「校務DXに寄与する」といった声が寄せられています。
以上の結果より、教育現場における長時間労働問題の現実と、パソコン等を用いる校務の効率化の必要性が見えてきます。
液晶ディスプレイ導入で95.8%が校務の効率向上を実感、校務DXの有効な一手に
今回の調査では1人1台以上の外付け液晶ディスプレイを使用してもらいました(最低でも配布されているノートパソコンと2画面になる)。

職員室でノートパソコンと液晶ディスプレイを併用する様子(大阪教育大学附属平野小学校)
ディスプレイ導入におけるパソコン業務の効率化については、95.8%(23/24人)の方が、効率が良くなっていると実感しています。

効率が良くなったと実感した理由については、ほとんどの方が複数画面による資料やデータの視認性の良さを上げており、また一部では「文字サイズが大きくできたことで見やすくなった」「他の職員への情報共有がしやすくなった」といったコメントもありました。また「変わらなかった」と回答した方に理由を伺うと、「効率としては、現在使用しているパソコン1台で十分だから。ただし、学年打ち合わせの際の共有ツールとしての活用は効果的でありがたいものである」とのことで、情報共有などにおける外付けディスプレイの活用については効果を実感してくれていました。
さらに「効率が良くなった」と回答した方にディスプレイ導入前後における作業時間の変化を質問したところ、8割以上が短くなったと回答。その半数以上が15分以上の短縮ができたとしています。


仮に1日30分の業務短縮が実現できれば、1か月で約10時間程度の残業時間削減が可能です。ディスプレイを導入することによるパソコン業務の効率化が、いかに教職員の長時間労働問題の解決に寄与し、校務DXに有効であるかがわかります。
効率化だけに留まらない、液晶ディスプレイ導入のメリットとは?
単に業務を効率化する以外にも、ストレスの軽減や身体的負担の軽減の効果も見られました。「液晶ディスプレイの導入により業務のストレスレベルが減ったと思いますか」という質問では、24人中23人が「思う」「ややそう思う」と回答しています。

ストレスレベルの低下については、アメリカのアンジェロ州立大学による研究(※1)でも、シングルディスプレイよりもデュアルディスプレイ環境の方が、認知負荷が低いということが示されています。これはつまり、作業性やストレスの少なさという観点で、デュアルディスプレイ環境の方が優位であることを指しており、特に複数資料を参照しながら作業するタスクで効果が顕著に表れたそうです。
また、液晶ディスプレイの利用による身体的負担の変化に関する質問でも、70.8%(17/24人)が「改善した」「やや改善した」と回答しました。

デュアルディスプレイ環境における身体的負担の軽減については、平成29年(2017年)にHuman Factors 誌に掲載された実験研究(※2)で、ノートパソコン単体よりもデュアルディスプレイ環境の方が首の筋肉活動が抑えられ、自然な姿勢を維持しやすい傾向が示されています。実際に液晶ディスプレイを使用した教職員のコメントでも、「姿勢が改善され、作業効率が高まった」「視線が高くなり、首への負担が減った」「画面が大きいことで、目の疲れが軽減した」などの声をいただいています。
教職員へのヒアリングの中では、「学校のリスク管理に役立った」という話もありました。保健室とのチャットや、環境省の熱中症予防情報サイトをリアルタイムにチェックしている木古内中学校の深見校長は、ディスプレイの導入効果について次のように話しています。
「ノートパソコンではウインドウ表示を切り替えて確認していたが、大画面液晶ディスプレイを接続すればウインドウを開きっぱなしにできる。緊急連絡などの見逃しもなくなる」(深見校長)
この他にも、液晶ディスプレイで情報共有がしやすくなったことで、教員同士のコミュニケーションの活性化につながったという意見や、資料印刷が減ることによるペーパーレス化への効果も期待されています。
※2 平成29年(2017年)にHuman Factors 誌に掲載された実験研究
効果検証をしたからこそわかった導入の課題
ここまで液晶ディスプレイの導入効果を解説してきましたが、一方で導入における課題も見えてきました。それが設置スペースの問題です。特に職員室の教員の机上は、資料やパソコンなどが常にあるため、モニターの置き場所やケーブルの配線に困ってしまう、という意見がありました。そのため、本格的な導入の際には、場合によってモニターアームなどの使用を検討する必要があるでしょう。
また、個人情報という観点での懸念もあげられました。視認性が良くなってしまう分、生徒が職員室に訪れた際に画面が見えてしまう可能性があり、採点や成績処理といった作業に支障が出てしまうそうです。職員室の入り口付近に座っている教員の場合には、ディスプレイの個人情報表示に気を使うという意見もありました。こういった問題については、ディスプレイ導入と併せて、職員室における個人情報取り扱いに関するルールやガイドラインでの対策が必要かもしれません。
小さな校務DXの積み重ねが教育現場の働き方改革と教育の高度化につながる
一般企業のオフィスワーカーであれば、多くの方がノートパソコンと外付けディスプレイの組み合わせで業務をされていると思います。常時コミュニケーションツールを表示させたり、資料作成の際に別の資料を映し比較したり、便利な活用シーンがたくさんあるでしょう。実は教育現場においても有効活用シーンはほとんど同じで、どのような業務に有効であったかを尋ねた質問では、「文書作成」「オンライン会議」「資料作成」「打ち合わせ」など、特殊な用途ではなく一般的な用途が数多く寄せられました。
外付けディスプレイの導入は、大規模なシステム投資ではなく、比較的低コストかつすぐに取り組める校務DXの一つです。今回の共同研究で示された成果は、現場の教職員にとって日々の業務効率化や負担軽減につながるものであり、各自治体にとっても導入を検討する十分な理由になると思います。こうした小さな環境改善の積み重ねが、結果として働きやすい学校づくりや、より一層高度化された教育活動の実現に直結していくでしょう。

