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駅や商業施設、飲食店の店頭などで、広告やメニュー、施設案内などを表示する大型ディスプレイを見かける機会が増えた。パソコンでおなじみのマウスコンピューターも、液晶ディスプレイブランド「iiyama」を通じてデジタルサイネージを展開している。
欧州で先にデジタルサイネージ事業を伸ばしてきた同社だが、今期は国内向けのラインアップを42.5型から98型までの6サイズへ広げるなど、国内市場の開拓に本腰を入れる。ただ、製品をそろえれば済むわけではないのが、デジタルサイネージの難しいところだ。今回は飯山工場を訪れ、国内展開を強化する狙いや製品づくりのこだわりについて、開発と製品企画の担当者に話を聞いた。
開発・購買本部 製品部 製品企画室 松山順一氏
iiyama開発部 部長 下田正和氏

iiyamaブランドのデジタルサイネージは、欧州を中心に台数を伸ばしてきた。小売店やショッピングモールのほか、一部の空港にも導入されている。デジタルサイネージは、顧客の使用用途や設置環境の要望を考慮するため、製品選びも慎重にならざるを得ない。そうした顧客案件の要望を満たすことで採用され、実績を積み重ねてきたことが、iiyamaへの信頼につながっている。
欧州では、日本より早くからデジタルサイネージの活用が進んできた。その背景の一つとして、下田氏はコロナ禍に設けられた欧州での復興基金の存在を挙げる。
下田氏:「欧州では、『NextGenerationEU』という復興基金を通じて、デジタル化を後押しする補助金制度が整備されました。こうした政策の追い風もあり、デジタルサイネージ市場の拡大が加速したと感じています」
もっとも、補助金は一つのきっかけにすぎない。もともとiiyamaのディスプレイを扱っていた取引先から、デジタルサイネージについても問い合わせが寄せられていた。それを受けて、欧州でデジタルサイネージのラインアップをそろえ、拡販を積極的に進めていったのだという。
デジタルサイネージの需要が伸びる地域は、時期とともに変わってきた。当初はフランス、イギリス、ドイツの主要国で需要が多かったが、現在はベネルクス諸国や北欧などへと広がっている。
iiyamaのデジタルサイネージはなぜ欧州で選ばれ続けたのだろうか。
大型デジタルサイネージは、オフィスや個人用途のディスプレイのように大量に常時販売する商品ではない。導入する施設や店舗などの案件が決まってから初めて注文につながる「案件ありき」の世界だと下田氏は説明する。だからこそ、実際に導入顧客先と機器の選定やシステム構築を担うシステムインテグレーター(中間に立つ事業者)との関係がとても重要になる。
下田氏:「たとえば、ある国の空港案件で、システムインテグレーターを通じて十数台が採用されたとします。そこで問題なく稼働すると、その導入実績から信頼され、同じシステムインテグレーターが新たな案件を相談してくれるようになるのです」
マウスコンピューターの欧州での営業は、エンドユーザーよりも、こうした多くのシステムインテグレーターとの良好な関係構築が強みとなっている。一度築いた実績と信頼が次の案件を呼び、拡販を後押ししているそうだ。
だが、そもそも製品の導入実績を重ねるには、まず製品そのものが選ばれなければならない。では、iiyamaはどんな理由で選ばれているのか。
下田氏:「液晶パネルはデジタルサイネージ専用のパネルを採用しております。この液晶パネルは、大手メーカーのデジタルサイネージ製品でも採用されているため、仕様面では大手メーカーに引けを取りません」
そのうえで差別化ポイントとして下田氏が挙げたのが、「価格」「信頼性」「サポート」、そして顧客の要望に応じた「機能による利便性」である。なかでも価格は重要だという。デジタルサイネージは主に法人向け製品ではあるものの、通常のディスプレイと同じく価格競争は欠かせず、他社と比べて競争力のある製品を提供できなければ、販売台数を伸ばせないからだ。特にフランチャイズ店舗やチェーン展開企業では複数台を導入するケースも多く、導入コストの抑制は拠点展開のしやすさにもつながる。
サポートについても、対応の速さを強みに挙げる。デジタルサイネージでは、「この動画形式は再生できるか」、「自社で作ったアプリはきちんと動くか」といった相談が顧客から寄せられるという。それを技術部門で受け、アドバイスや対応策を顧客に提案するのだ。
下田氏:「大手メーカーですと、間に複数の業者が入り、実際に対応できるのは数カ月かかることもあります。しかし当社は、いただいた要望をそのままエンジニアが受けて、早期に提供できるので、強みの一つだと思います」
日本で販売するデジタルサイネージも、欧州で販売している製品と基本的には同じ。競争の激しい欧州市場で認められ、実績と信頼を得た製品だ。その信頼性を支える要素の一つが、パネル選びにある。
広告や電子看板では同じ画像を長時間表示することが多く、テレビ向けパネルでは、経年劣化による輝度低下や画質変化がある。また、外光を受けやすい屋内で使われるケースも多いため、高い視認性も重要だ。
下田氏:「テレビ用のパネルと比べると、デジタルサイネージ専用のパネルは24時間連続稼働に対応しているほか、高信頼性品の部材を採用しており、長時間の運用にも耐えうる設計となっています。デジタルサイネージの開発では、こうした高信頼性のデジタルサイネージ用液晶パネルの採用が欠かせません」
さらに、デジタルサイネージでは、電源まわりにも高寿命部品を採用。静止画の長時間表示による焼き付きを軽減する機能も備えている。
下田氏:「お客様の継続的な映像配信を妨げることなく、24時間連続稼働の環境でも長く画像表示品質を保つ製品開発を心がけています」
その開発と品質は、どこでチェックされているのか。大型デジタルサイネージは、主にマウスコンピューターの台湾開発チーム主導で、海外パートナー先の開発チームと共同で開発。製品の製造も海外のパートナー工場が担う。また、信頼性試験も、海外パートナー先や第三者の試験所で試験検証され、海外各国の安全規格の認証を受けているという。
試験では、高温/低温/湿度条件による環境試験、振動/落下試験や静電気試験など、さまざまな信頼性試験を実施している。開発工程においてこれらすべての試験に合格することが、量産化に向けた前提条件となる。
こうした試験の実施完了後、すべての試験結果レポートを精査するとともに、必要に応じて現地へ足を運び、規格どおり試験が実施されていることも確認する。
試作の最後には、量産前の事前試作の開発工程がある。ここで品質管理部門が加わり、仕様どおりの製品が製造できているかの検査を実施し、双方が問題ないと確認して、初めて量産へ移行できる。こうした工程を経ることで、製品品質が確保されているのだ。
マウスコンピューターは、欧州で得た実績とノウハウを日本にも広げようとしている。用途そのものも、日本と欧州で大きな差はない、と下田氏。違うのは、売り方と体制だ。
日本でも、42.5型と55型は数年前から扱っていたが、2026年度はそれを65型、75型、86型、98型の6サイズに広げた。松山氏によると、ラインアップの拡充後、約3カ月で前年度1年分に相当する台数の採用が決まったという。
売れ筋は最小の42.5型で、全体の6割ほどを占める。1台だけでなく、2台から4台を並べて使う例が多いとのことだ。小売店のメニュー表示のように、複数のコンテンツを同時に出したい用途では、大きな1面よりも小さい画面を複数並べるほうが適している。画面によって表示を変えることができるなど、レイアウトの自由度が高いからだ。一方で98型はまだ導入例が限られており、活用シーンの広がりは今後に期待される。
左が55型、右が42.5型 ※スタンドは付属しておりません
デジタルサイネージの導入先は広がりつつある。たとえば、病院の案内システムや、インバウンド需要を背景にした飲食店の店頭メニューなどだ。松山氏は、ショッピングモールに加え、イベント用に機器を貸し出すレンタル会社にも需要があるとみている。最近はイベント会場やアミューズメント施設などでも、来場者への案内やイベント告知、没入感を高める演出を目的にデジタルサイネージの活用が広がっており、それに伴ってレンタル需要も高まっているからだ。
導入が進む一方で、デジタルサイネージならではの難しさもあると松山氏は言う。
欧州では、システムインテグレーターがデジタルサイネージのアプリケーション開発やサポートまで手広く担っている。ところが日本では、その役割が分散している。アプリケーションとサポートを手がける事業者が数多くあり、ディスプレイをどれにするかは、その事業者が選ぶ。ディスプレイメーカーとしては、多数の事業者との連携が求められるため、市場開拓は一筋縄ではいかないのだ。
松山氏:「汎用ディスプレイなら、注文をいただいて製品をお届けすれば、そこで販売は終わります。しかしデジタルサイネージとなると、取り付けをどうするのか、どのようなアプリケーションを使うのか、サポートは誰が担うのか。そこまで考えないといけません」
物理的な問題も大きい。98型は本体だけで61kgあり、2人がかりでも簡単には動かせない。壁掛けや天井への設置となれば壁や天井の強度が問われ、設置業者に依頼する必要がある。エレベーターが使えない、傷をつけたときの責任はどうなるといった細かい事情も、現場ごとに違う。
加えて送料の問題もある。そこで同社は、基本的な配送料金を全国一律にした。倉庫から設置先へ直送する形で、42.5型を超えるサイズは基本的にチャーター便を手配している。
松山氏:「関東はいくら、関西はいくらと地域で変わってしまうと、お客様も選択肢に入れにくくなります。そのため、全国で統一した金額(※)を出しています」
※離島・時間指定等は除く
松山氏が引き合いに出したのは、家電の売り方だった。
松山氏:「量販店でエアコンを買えば、取り付け工事まで手配し、古いエアコンの下取りまで引き受けてくれます。デジタルサイネージも、そこまでやらなければいけないと考えています」
現在は取り付け金具メーカーと組み、どの製品にどのスタンドや壁掛け金具が使えるかの検証を進めている。デジタルサイネージに金具を同梱し、設置業者が取り付けまで担う流れを作りたい考えだ。
欧州での成長の背景にあったのは、システムインテグレーターとの関係だった。日本ではそこに、配送や設置を担う業者との連携まで加えた導入体制の構築を進めようとしている。
設置が終わって稼働したあとも、コンテンツの更新は必要だ。店舗が1カ所なら、USBメモリで画像や動画を差し替えればいい。だが拠点が全国に広がると、更新のたびに現地へ出向くのは現実的ではない。大きなチェーンであれば、本部から一括して管理したいという要望が出てくる。
そこでマウスコンピューターが提供するのが、クラウド上でコンテンツを一元管理するCMS「iiSignage²」だ。コンテンツの配信や更新、スケジュール設定に対応するほか、ディスプレイごとに明るさや音量の設定変更や遠隔管理などを、顧客自身で行える。
顧客はPC1台から、コンテンツ管理に加えてディスプレイごとの設定変更や遠隔管理も行える
下田氏:「このサービスを、当社の場合は無料で使えます。大手メーカーですと使用料がかかることもあるため、お客様にはこの点も大きなメリットと感じていただけています」
▼iiSignage²の実際の管理画面
iiSignage²は、導入したデジタルサイネージを一覧で管理できる。稼働状況をまとめて確認できるため、多拠点展開する企業でも運用しやすい。
コンテンツ配信も管理画面から実施可能。新しい動画や画像への差し替えを遠隔で行えるため、拠点ごとに作業者を手配して更新する必要がない。
また、配信日時や配信期間の設定にも対応しており、キャンペーンや時間帯に合わせたコンテンツ運用を効率的に行える。
端末ごとの設定変更にも対応。表示環境に応じて明るさや音量を調整できるため、設置場所に合わせた運用を行いやすい。
ただ、日本での「iiSignage²」の展開は開始して間もないため、本格的に使いたいという顧客が増えたときに応えられるよう、現在、情報提供の準備を進めていると話した。
一方で、現時点ではどんな使用環境でも同じように活用できるわけではない。
下田氏:「通信インフラ環境が充実している欧州と違い、日本では、お客様が導入検討される環境は、必ずしもネットワークがつながる環境とは限りません。
実際、最近導入させていただいたあるお客様ではWi-Fiなどのネットワーク環境がなく、クラウドでのコンテンツ管理が使えず、USBメモリ経由で配信コンテンツを表示して運用されたケースもございました。導入前に設置先の環境を十分に確認する必要があるのです」
顧客ごとに異なる設置環境や運用ニーズに対応していくことも、日本市場を開拓する上での重要な課題となる。日本でのデジタルサイネージ市場への本格参入は、まさに始まったばかりだ。
※スタンドは付属しておりません
松山氏:「まずは導入例を増やしたいですね。どこでどう使われているかが見えれば、検討しているお客様も判断しやすくなりますから」
導入事例を積み重ねることの重要性を強調する松山氏。デジタルサイネージは、製品そのものの性能だけでなく、設置環境に応じた提案や導入後のサポートも求められる商材だ。
欧州で培った実績をいかしながら、日本の事情に合わせて配送や設置、運用まで含めた導入しやすい体制づくりを進めるiiyama。製品の性能だけでは差別化が難しい市場で、こうした取り組みがどのように実を結ぶのか。マウスコンピューターの国内におけるデジタルサイネージ事業の今後に注目したい。
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