創造的なレタッチにスピードは最重要
最高の環境を

フォトレタッチャー
栗山 和弥さん

栗山和弥 インタビュー

栗山さんは、フォトレタッチャーという職業が確立されていない1980年代から、写真の補正や合成を手がけてきた。いわば業界の先駆者的存在だ。フォトレタッチの世界では、ダイナミックな合成はもちろん、細部にこだわる繊細な感性が必要になり、PCには補正に追随する高速処理が求められる。プロのフォトレタッチャーとしてクリエイター向けデスクトップマシン「DAIV」の魅力を語ってもらった。

映画のポスターで写真を合成、レタッチにのめり込む

――― デザイン会社でグラフィックデザイナーとして仕事をスタートさせた栗山さん。当時はまだレタッチという言葉がなく「画像処理オペレーター」と呼ばれていた。幸運にも勤めていた会社の社長は、デジタル機器の導入に積極的だった。職場には日本に3台〜4台しかなかった、イギリスのQuantel社の「Paint Box」という機材があった。栗山さんは、機材を使わせてもらっているうちに写真の合成や補正にのめり込む。

栗山 「当時の機材は、できることが限られていました。350dpiに換算するとハガキサイズほどの画像しか処理できなかったんですよ。いま考えると信じられない世界ですね。もちろんレイヤーもありません。画像処理のメインは、建築パースの電線を消したり、不要物を除去したりという仕事。しかし、それだけではもったいないと考えていました。そこで思いついたのが、映画のポスターの制作です」

――― 当時、映画のポスターの制作では、俳優の顔をふわっと浮き上がらせるために背景の印画紙へマスクを使って焼き込んでいた。しかし、それには時間と手間がかかる。これをデジタル化したらどうだろう?と栗山さんは考えた。

栗山 「東宝や東映などの大手の映画関連会社に、こういうことができます!と足を運んで売り込みをかけました。興味を持っていただいて、ちょっとやってみようか?ということになり、最初の仕事が評判を呼び、それからは口コミで、次々と映画のポスターの仕事を依頼していただけるようになりました」

――― やがて高速にグラフィックを処理するPCが登場し、フォトレタッチの技術は進化していく。広告や出版などグラフィックデザインの世界にデジタル化が浸透していった。

栗山 「5年間ほどデザイン会社に勤めていましたが、画像の高速処理を実現するPCの登場を契機に1997年に独立しました。その後、映画のポスターをはじめとして、音楽のCDジャケット、広告と画像処理技術をもとに仕事の範囲を広げていきました」

レタッチのこだわりは自然な光の再現

――― 現在、クリエイターではなくても一般的にフォトレタッチの世界が身近になっている。スマートフォンで自撮りした写真をアプリでレタッチして、SNSに投稿することが当たり前になった。

栗山 「レタッチは何でもありの世界です(笑)。広告でサイボーグのような女性が求められたら、大胆な加工をします。そんな極端な場合はともかく、ふつうのレタッチでは、自分なりのこだわりがあります。たとえばモデルが女性であれば、自然な光の中で見たときに、彼女らしい雰囲気が感じられるようにすることです。目の前にいるような雰囲気を再現することが、フォトレタッチャーの仕事だと考えています」

 

――― 写真撮影において光を「創る」ことは重要だ。直接顔に当たった光だけではなく、壁などに反射(バウンス)した光も姿や表情に影響する。栗山さんは、どの部分の光を強調すれば立体感が生まれるか意識してレタッチしているそうだ。デジタルカメラが高精細になるにしたがって繊細なレタッチが求められる。

DAIV レタッチ作業
DAIV レタッチ作業

栗山 「デジタルカメラの撮像素子が大きくなってデータが高精細になると、たとえば女性モデルの写真を拡大した場合、撮影時には気づかなかったような肌のくすみや荒れが明瞭になります。それを補正して現実のイメージに近づけます。人間の肌は完全には不透明ではないので、内側に血が透けているとか、しみがあるとか、光と影の部分を考えると生々しい写真ができます。人間の身体を理解した上でレタッチする場合と、分からない場合では、仕上がりがまったく変わりますね」

――― しかし、被写体が人物や物だからといって、レタッチの手法を変えることはない。

栗山 「人物にも物にもクルマにも、光というのは平等に降り注いでいるわけです。そこで、被写体が人物だから物だからといって、光に対する考えかたを変えるようなことはしませんね。自然の光の中でどう見えるかをイメージしてレタッチします」

――― イメージした補正を形にするには、ブラシなどレタッチツールの追随性が重要になる。手書きで修正を行うときに重要になるのは、入力した反応に対するレイテンシー(遅れ)の短さだ。

栗山 「理想的な追随性は0.1秒です。0.1秒まで速くなれば自然な描画が可能になるでしょう。なぜスピードが必要かといえば、3〜4ピクセルの髪の毛を描画しようとしたとき、反応が遅いと自分が描いた線をトレースできないからです。より自然に描画できると、それだけレタッチのクオリティが上がります」

栗山和弥 作品例

快適な作業環境は、デュアルディスプレイと自動化で

――― 趣味でデジタル一眼レフを使って写真を撮影してレタッチをするような場合、作業環境を整えることが第一にすべきことだ。まず目を疲れないようにすること、と栗山さんはアドバイスする。レタッチでは視力を駆使する。したがって、長時間、画面に向かっていても快適であるように、ディスプレイとの距離、椅子の位置を決める。栗山さんは、基本的にデュアルディスプレイで作業をしている。

栗山 「左側はワークスペース、右側にツール類を置いています。ニューヨークでは最近シングルディスプレイが主流だと聞きますが、私はデュアルディスプレイにこだわります 。撮影現場で作業するときもありますが、このときもデュアルディスプレイです。現場にディスプレイだけ用意してもらって、デスクトップマシンをバッグに入れて持って行くこともあります。2台用意できない場合は、タブレットをサブモニターとして代用していますね」

――― 持ち出せるデスクトップがあれば便利だ。ノートPCという選択肢もあるが、処理速度や高精細な液晶でクオリティをチェックすることを考慮すると、デスクトップの方が好ましい。

栗山 「DAIVはキャスターを付けると移動しやすくなるので、背面のコードを差し替えるときに便利です。撮影現場などにDAIVを持ち出せるといいんですけどね。初めてDAIVを使ったときに、やや困惑したのは、起動時の電源の入れ方でした(笑)。DAIVではツマミをひねって電源を投入します。電源は押すものと思い込んでいたので、これはどうやって電源を入れるのだろう?とやや戸惑いました。とはいえ、筐体のデザインには満足していますよ」

 

――― 作業を快適にするためにアプリケーションで行うこととしては、『Adobe Photoshop』では一連の作業を記憶させるアクションをよく使うという。作業を効率化するというよりクオリティを高めるために、テキパキと仕事をこなせるようにしている。

栗山 「『Adobe Photoshop』のアクションの一つとしてよく使うのは、トーンカーブを変更して新規レイヤーを作るような設定。パレットの設定をクリックするだけでも3〜4秒かかりますよね。しかし、アクションのボタンがあれば0.5秒で済みます。選択範囲を反転させるような自動化のアクションもよく使うかな。PCは道具なので、使い方を工夫すればどんどん使いやすくなります」

スピードが創造性を左右する、メモリとSSDは拡充すべき

――― メモリは積めるだけ積むのが理想という。栗山さんのマシンの基本は64GBである。できれば起動ディスク以外にSSDを増設した方がよいだろうと提案をいただいた。DAIVは拡張性に優れているので、BTO時に自由にメモリやドライブを追加してカスタマイズできることは大きなメリットだ。

栗山 「デジタルフォトでRAW現像などをする場合は、メモリに十分な余裕が必要です。一枚の画像だけ処理するのであれば問題ありませんが、シリーズの写真をたくさん処理する場合にはメモリ容量を超え、スクラッチ(仮想記憶ディスク)を使うようになります。ディスクは起動用のSSD、ストレージ用のハードディスク、さらに補助用にそれほど容量がなくて構いませんが128GB程度のSSDを増設するとよいでしょう。補助のSSDは『Adobe Photoshop』のスクラッチ保存用です。起動用のディスクだけの場合、テンポラリーのファイルがそのディスクに溜まっていくので、補助のSSDにファイルを切り分けておくと便利です」

――― 栗山さんが、重視するのはとにかく「スピード」。処理が高速化すれば、その分試行錯誤が増やせる。栗山さんに試用していただいたDAIVはDGZ520シリーズ。CPUは第8世代インテル® Core™ i7-8700 プロセッサー/6コアだ。以前に試用いただいた第6世代インテル® Core™ i7-6700 プロセッサー/4コアのマシンより、断然速くなったという。

栗山 「『Adobe Photoshop』で10万ピクセル四方の画像を作って、マックスサイズの半径5,000ピクセルのブラシを使って外周を描いて1周何秒かかるかテストしてみたんですよ。以前のマシンでは30秒かかったのが、今回は約18秒に短縮された。驚きましたね。ひとつのCPUのクロック周波数が低かったのでやや心配だったのですが、まったく影響はありませんでした。こんなに速くなったのか、と感動です!」

――― 現在はWindowsをメインに使うことが多いという。静止画だけでなく動画編集などに使いたい場合は、GPU(ビデオカード)のカスタマイズできるWindowsマシンの方が選択肢としてよいのではないか、とも考えている。

栗山 「現在、ほとんどWindowsのPCを使っています。Adobe Photoshopでは標準的なGPUで問題ないように思います。しかし、『Adobe After Effects』、『Adobe Premiere』など動画編集にも使いたい人はチェックしておいた方がよいでしょう」

――― 技術の進歩はめざましい。クリエイター向けのPCも、確実に高速化している。2045年には技術が対数的に変化して、現在とはまったく変わった社会が到来することが予測されている。いわゆる「シンギュラリティ(特異点)」である。このときに、人間の仕事は人工知能に奪われるのでは?と危惧する識者もいる。

栗山 「Adobe Photoshopがどんどんバージョンが上がっていき、機能が進化したとき、友達からお前の仕事なんてなくなっちゃうかもしれないよ?とずっと言われてきたんですよね。でも未だにきちんと仕事はあります。というか、ますます重要度が上がっています。 現在開発されているAIレベルではまだまだ人間のほうが上です。でも、十数年後に想定されているシンギュラリティが来たら、すべてにおいて機械のほうが優れるようになると思うのでレタッチの仕事どころではなく、地球規模ですべての仕事が機械化されるでしょう。その時どういう身の振り方をするか考えておかないと、ですね。そんな体験ができる時代に生きていてよかったと思いたいですね」

栗山和弥

栗山 和弥さん

1969年生まれ。デザイナーとして活動後、ハイエンド画像処理ツール「グラフィックペイントボックス」のノウハウを修得。'94年に独立し、さらに'98年にはフォトレタッチを軸に多彩なイメージ制作を手がける「クリーチャー」を設立。現在は、広告業界をはじめ、幅広い分野で活躍し、クリエイティブなフォトレタッチャーとして多方面から信頼を集めている。

CREATURE INC. 
https://www.creature.co.jp/

DAIV-DGZ520シリーズ

高い汎用性で、幅広い制作環境へ。6コア12スレッドの第8世代インテル® Core™ i7プロセッサーを搭載し、コストパフォーマンスに優れたモデル。広告グラフィックの多くを制作するプロダクション「株式会社アマナ」の協力を受け、最前線で活躍するクリエイターの意見を参考に写真や動画、イラスト、3DCGなどの使用に向いたクリエイター向けパソコン。

多彩なクリエイティブ用途に対応できるパフォーマンスに優れたデスクトップPC