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最先端のスポーツ科学を用いたeスポーツラボ?味の素NTCに開設された「HPSC ESPORTS LAB」を見てきた

世界でも珍しいeスポーツ特化ラボとは? 味の素NTCに開設された「HPSC ESPORTS LAB」を見てきた イメージ画像

9月に開幕する国際大会では、正式なメダル競技として実施されるeスポーツ。マウスコンピューターでも、eスポーツの競技用PCを提供しており、日本代表選手を応援しています。

大会開幕まで約50日と迫ったタイミングで誕生したのが、「HPSC ESPORTS LAB(日本語表記:HPSC Eスポーツラボ)」。オリンピック・パラリンピックの日本代表の強化拠点、ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)が、味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)の屋内トレーニングセンター・イースト3階に新設したeスポーツ選手の支援施設です。eスポーツの国内中央競技団体である一般社団法人日本eスポーツ協会(JESU)も、開設に向けて協力しており、国が保有するアスリートの強化施設に、eスポーツに特化した設備を導入する事例は世界でも例がないといいます。

2026年7月31日、その味の素NTCで同施設のメディア発表会が開催されました。さらに発表内容に加えて、ラボでは国際大会種目の『eFootball』と『ぷよぷよeスポーツ』日本代表選手によるデモンストレーションも、実際に大会で使用されるG TUNEを用いて実施されたので、その様子をお伝えいたします。

 

経験値に頼ってきたeスポーツ強化の課題

冒頭に登壇したJESU共同代表理事・副会長の越智政人氏は、日本のeスポーツシーンについて次のように説明しました。

「日本のeスポーツは、ゲームコミュニティから発展してきました。選手の皆さんも、これまで培った独自の経験値に沿って練習をしており、残念ながら医科学的なアプローチによる強化はできておりません」(越智氏)

一般社団法人日本eスポーツ協会(JESU) 共同代表理事・副会長 越智政人氏一般社団法人日本eスポーツ協会(JESU) 共同代表理事・副会長 越智政人氏

一方で国際大会は数を増し、競争も激化しています。そのため管理やコンディショニングに課題を抱える選手が増え、選手自身のなかにも医科学的なトレーニングやケアへの関心が高まってきたといいます。

そこで生きてくるのが、HPSCが積み上げてきた知見です。越智氏は、近年の日本人選手の活躍には独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)を中心とした医科学面、情報面のサポートが大きく貢献していると述べ、その蓄積がeスポーツにも活用されることへの期待を示しました。同時に、ラボで得られるデータからeスポーツに適した新たな知見が生まれ、それが競技力の向上にとどまらずライフパフォーマンスの領域まで広がることも見据えています。

「今年9月には、国際大会が日本で開催されます。このeスポーツラボを活用し、競技力の向上に向けてトレーニングを重ねて、1つでも多くのメダルを獲得する。これが我々の目下の目標です」(越智氏)

続いて登壇したスポーツ庁競技スポーツ課の関口直樹課長補佐も、ラボがeスポーツ選手の競技力向上を支援するとともに、コンディショニングやパフォーマンスのデータ活用、先端的な研究実証を進める場として大きな役割を担うと述べました。さらに、そこで得られる知見は、eスポーツの分野にとどまらず、リアルスポーツにおける競技力の向上やスポーツ科学の発展、社会全体への技術還元にもつながると語りました。

オリパラ選手向け支援のeスポーツへの展開

施設のコンセプトを説明したのは、JSCのハイパフォーマンススポーツセンター長で国立スポーツ科学センター(JISS)所長を務める久木留毅氏です。

久木留氏は、バイオリンや能舞台、歌舞伎、バレエ、フラメンコなどを例に挙げ、ハイパフォーマンスはスポーツだけのものではなく、文化を含めた多くの分野に存在すると話しました。

「今から12年前の2014年、それまでオリンピックを中心にサポートしていた私たちが、パラリンピックという新しい競技に挑戦しました。12年をかけて、オリンピックで培ったスポーツ医・科学、情報面のサポートをパラリンピックに展開し、今では世界のどの国からも注目される支援を推進しています。そうした中で、新しくeスポーツという領域にチャレンジできることは、私たちにとって非常に大きな機会だと考えています」(久木留氏)

独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター長/国立スポーツ科学センター所長 久木留毅氏独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター長/国立スポーツ科学センター所長 久木留毅氏

HPSCがオリンピック・パラリンピック選手に提供しているのは、最適なトレーニング環境と、そこでたまった疲労のリカバリーを促し、状態を継続的にモニタリングして評価するという一連のサイクルです。近年はさまざまなデバイスやデジタル技術も測定に活用されています。

さらに心理、メディカル、栄養、映像、バイオメカニクス、トレーニング、戦略、生理・生化学といった分野のスタッフが融合して1人のアスリート、1つのチームを支える「トータルコンディショニング」の考え方も推進しています。この一連のパッケージを、そのままeスポーツ選手にも提供したいというのが久木留氏の考えなのです。

3つのゾーンで構成されるHPSC ESPORTS LAB

プレゼンテーションに続いて、HPSC ESPORTS LABを見学しました。

扉を開けて、手前は緑を基調としたウェルビーイングゾーン。選手がリラックスしながら会話できる場です。久木留氏によると、eスポーツの選手とオリンピック・パラリンピックの選手が交流できる場になることを想像してつくったといいます。

続くeスポーツゾーンは、従来のeスポーツ競技を中心とした研究と支援を進める区画です。この日は、国際大会で使用されるゲーミングPCと同じモデルを、マウスコンピューターが機材協力しており、「G TUNE」のデスクトップPCが並んでいました。

選手がG TUNEで練習する様子

ここでは選手たちがすでにトレーニングを行っており、選手の横に設置されたモニターを見ると、通常のプレー画面とは少し違っているのが分かります。中央上部にハートマークと数字が表示され、「128」「121」といった数値がプレーの展開に応じて刻々と変わっていきます。これは選手の心拍数がリアルタイムで記録され、映像に重ねて表示されているのです。さらに『ぷよぷよeスポーツ』のプレー画面では、サーモグラフィの映像も映し出されていました。

心拍数などが表示されたモニター

その他、この日は使用されていませんでしたが、ラボのいちばん奥はバーチャルスポーツゾーンも併設。現実の身体運動を、センサーを介してデジタル空間に反映させる競技に対応しており、ハンドル型のコントローラーとレーシングシートを備えた設備が並んでいました。

アイトラッキングを使った『eFootball』の振り返り

トレーニングが一段落すると、選手たちは大型のタッチモニターの前に集まりました。ここからがラボの真骨頂です。直前のプレーを録画した映像を再生しながら、選手自身がプレーを振り返っていきます。

まずは『eFootball』から。日本代表のTess(貴田英貢也)選手と、コーチを務めるAx(橋木俊平)氏の対戦を、トレーニングパートナーの解説を交えて振り返ります。

大型モニターにはタッチペンで直接書き込むことができ、映像を止めて、選手を丸で囲んだりパスコースを線で示したりしながら、そのとき何を見て、なぜその選択をしたのかを確認していきます。注目したいのは、映像に表示されていた選手の視線の軌跡。プレー中に画面のどこを見ていたのかを視線計測装置で記録するアイトラッキング技術が用いられています。

画面上にアイトラッキングの白い軌跡と心拍数が表示されている画面上にアイトラッキングの白い軌跡と心拍数が表示されている

この技術を活用することで、振り返りの質が大きく上がります。たとえばある瞬間のプレー映像を振り返る場面で、Tess選手は、相手の反応を見てから自分の選択を決める「あと出しジャンケン」を狙っていたと語り、一方のAx氏は、動かしていない選手をあえて走らせて自分の選択肢を増やしたと話していました。つまり、同じ数秒間でも、2人はまったく違う場所を見ながら、違う考え方でプレーしていたわけです。言葉だけだと伝わりにくい感覚的なプレーの意図が、アイトラッキングと書き込めるモニターを使うことで浮き彫りになり、質の高い議論につながるというわけです。Tess選手は試合中の失点についても、「すべて後手後手に回っていました」とアイトラッキングのデータを興味深そうに見つめていました。

「他のプレーヤー(の目線)から得られるものはすごく大きいので、こういう振り返りは自分の技術向上をかなり後押ししてくれると思います」(Tess選手)

eFootball 日本代表 Tess(貴田英貢也)選手eFootball 日本代表 Tess(貴田英貢也)選手

「ゲームをやっていると、感覚的に行動することが多いんです。自分のプレーを客観視したり、フィードバックを受けたりする機会はなかなかないので、こういう機会はすごく大事だと思います」(Ax氏)

視線データで判明したトッププレーヤーの傾向

続いて『ぷよぷよeスポーツ』の振り返りです。日本代表のゆうき(栗原悠輝)選手のプレーを、トレーニングパートナーが解説します。

『ぷよぷよ』では、自分のフィールドだけでなく、次に落ちてくる「NEXTぷよ」や対戦相手のフィールドも確認しながらプレーします。ただしゲームの進行は速く、どこにどれだけ目を向けるかは選手によって異なります。

ゆうき選手の視線をチェックすると、その大半が自分の盤面に注がれていることがわかります。ある場面では、相手が攻撃を仕掛けるまで、視線はほぼ自分の盤面にとどまっていました。

ゆうき選手自身も、データで可視化したからこそ、こうした傾向に気づけたと話します。

「振り返りはあまりしないので、今日はいつもと違うことが学べたと思いました。相手を見る頻度もあまり分かっていなかったんですけど、これ(データ)を見たら、あまり(相手を)見てないなと分かって、面白かったです」(ゆうき選手)

ぷよぷよeスポーツ 日本代表 ゆうき(栗原悠輝)選手ぷよぷよeスポーツ 日本代表 ゆうき(栗原悠輝)選手

トレーニングパートナーも、アイトラッキングについてはポジティブな感想を持ったといいます。具体的には、調子の良い日と悪い日のアイトラッキングデータを比較することで、大会でのパフォーマンスの安定につながるのではないか、と期待を寄せていました。

これまで言葉にされてこなかったトッププレーヤーの癖や傾向を、テクノロジーで可視化することで、本人の気づきにつながります。また、指導する側にとっても選手の育成に生かすことができ、より一層の選手の成長が狙えます。

データ活用が広げるeスポーツ支援の可能性

これまで感覚に委ねられてきたプレーの中身を、テクノロジーを駆使して可視化するHPSC ESPORTS LAB。この日の取材では、視線や心拍といったデータが、選手自身のプレーを客観的に振り返るための新たな材料になることが実感できました。発表会で久木留氏が語ったところによると、ラボで培った知見を、将来的にはオリンピック・パラリンピックのアスリートへ、さらには一般の人へと還元していく考えとのこと。

今後、HPSC ESPORTS LABが日本代表選手をどのように支えていくのか。選手たちの戦いとともに、その取り組みにも注目です。