『8番出口』のヒットや実況配信の広がりによって、インディーゲームは一部のゲームファンだけでなく、より幅広い層に届く存在になりつつあります。その変化を長く見てきたのが、インディーゲームパブリッシングブランド「PLAYISM(プレーイズム)」でエグゼクティブプロデューサーを務める水谷俊次さんです。
今回、2026年5月に京都・みやこめっせで開催された「BitSummit PUNCH」の会場で水谷氏に取材を実施。パブリッシャーの役割やインディーゲーム市場が広がった転換点、そしてこれからの展望について聞きました。
- パブリッシャーとクリエイターは「出版社と作家」に近い関係
- SteamやNintendo Switchがインディーゲームの転換点に
- 実況文化とインディーゲームの密接な関係
- 「自分でもやりたくなる」ゲームの条件
- 大作とインディーは、まったく別の魅力がある
- 自分に合うインディーゲームの探し方
- インディーゲームは、どこへ向かうのか
- 大作に疲れた人にこそ、インディーゲームに触れてほしい
パブリッシャーとクリエイターは「出版社と作家」に近い関係
——まずは自己紹介をお願いします。
インディーゲームパブリッシングブランド PLAYISMのエグゼクティブプロデューサーをしています。15年前の立ち上げ期から関わっていて、もともとうちの会社はゲーム会社というわけではなく翻訳会社で、私自身はクリエイティブや広告制作の出身です。PLAYISM設立のきっかけは、当時、海外で盛り上がりつつあったインディーゲームに着目したこと。ただ、内容は日本語に翻訳されていないし、そもそも購入できるプラットフォームがありませんでした。だったら買える場所を作って、自分たちで翻訳して売るしかない、と考えたことから現在に至ります。
——パブリッシャーというのは、ゲームに詳しくない読者にも分かるように説明すると、どのような存在でしょうか。
一番近いのは、出版社と作家の関係だと思います。本も、誰かが印刷して製本して全国の書店に流通させないと読者に届きませんよね。ゲームも昔はパッケージにして店舗に並べる必要がありました。その役割を担うのがパブリッシャーです。
今はデジタル配信が当たり前になって、クリエイター自身がボタンひとつでSteamに出せる時代です。だから「パブリッシャーはいらないのでは」と言われた時期もありました。でも、「完成したはいいけれど、その後どうしたらいいのか分からない」というクリエイターも多いんですよね。そこを引き受けるのが、私たちパブリッシャーの役割なんです。
——大手のゲーム会社もパブリッシャーと呼ばれますが、何が違うのでしょう。
大手の場合は、パブリッシャー側が「こういうものを作ってほしい」とデベロッパーに発注して、お金を出します。IP(知的財産)も基本的にパブリッシャーが保有します。インディーは逆で、クリエイターがまずゲームを作り、「これをなんとかしてほしい」と相談を受けて私たちが売るという形です。かなりデベロッパー主導なんですよね。
インディーゲームのクリエイターにとってのパブリッシャーは、マネージャーやメンターに近い部分もあります。会社対会社というより、個人対個人でお付き合いすることも多いです。ビジネスライクなだけの関係ではないところが、大企業とは違う点かもしれません。具体的な仕事としては、翻訳したり、デバッグしたり、宣伝したり、イベントに出たり、お金を出したり……。開発以外のすべてに携わると言っても過言ではありません。
SteamやNintendo Switchがインディーゲームの転換点に
——今年のBitSummitも大盛況でした。市場の広がりをどう振り返りますか。
今年特に感じたのは、パブリッシングに参入する会社の出展が非常に増えたことです。特に最近は国内の盛り上がりを強く感じます。15年前は、日本でインディーゲームを作っている人自体、ほとんどいませんでしたから。
——転換点はどこにあったとお考えですか。
やはりSteamがある程度一般化したことですね。かつて大手ゲーム会社はPC版を日本で売ることはあまりありませんでした。それが今では「Steamで出す」のが当たり前の状態になり、「パソコンでも遊べるんだ」と注目が集まり始めたんです。さらに、コロナ禍の巣ごもり需要でゲームに触れる人が増えたことや、PlayStationやXboxに加えてNintendo Switchが登場当初からインディーを支援する姿勢を打ち出していたことも大きかったですね。そこで一気に広まったという感覚があります。
加えて、SNSや実況がメディアと同じくらいの影響力を持つようになったのも見逃せません。小さなゲームでも、大きな実況者の波に乗れば一気に知名度が上がります。そしてユーザーがNintendo SwitchやSteamを開けば、そのゲームを購入できる。宣伝から流通までが一気通貫でつながったわけです。それまでは、才能あるクリエイターも面白いインディーゲームもたくさん存在したのに、どこで買えるのか、どうやって知るのかがユーザーにはわかりませんでした。コミックマーケットに行かないと手に入らないゲームもたくさんあるような状態でしたからね。
——PLAYISM自身の転換点はどこでしたか。
ひとつは『メゾン・ド・魔王』ですね。後に『グノーシア』を作るチームの前作で、当時Xboxでしか売っていなかったもののPC版を自社ストアで出したら1万本売れたんです。「インディーが売れる」という手応えを初めて得た瞬間でした。
実際のプレイ画面:メゾン・ド・魔王
© Petit Depotto Unholy Heights is a trade mark of Active Gaming Media Inc. All rights reserved.
もうひとつはSteamで作品を流通できるようになったこと。昔は運営会社のValveに問い合わせても返事すらもらえない閉鎖的なプラットフォームで、一部の契約パブリッシャーしかリリースできない状態でした。ところが、あるとき、「Steam Greenlight」という、ユーザー投票である程度の票を集めれば出せる仕組みができたんです。私たちが出した『LA-MULANA』が、日本で最初にGreenlightを通った作品でした。
実際のプレイ画面:LA-MULANA
© NIGORO All Rights Reserved. Licensed to and published by Active Gaming Media Inc.
実況文化とインディーゲームの密接な関係
——ゲーム実況との相性の良さは、どう見ていますか。
15年前、ゲーム実況はそもそもグレーな存在でした。大手のゲームは権利の問題で実況が難しかったので、配信者はフリーゲームばかり遊んでいた時代があったんです。私たちは初めから「気にせず、どんどんやってください」というスタンスでした。大手がやっていないタイミングだったからこそ、そういうスタンスである必要がありました。
今は大手も実況を許可する時代になったので、逆に配信者に取り上げてもらうのが大変です。大作のRPGが始まると、配信者は何か月もそれにかかりきりになって、なかなかインディーゲームを配信する暇がないというか。ただ、配信者も長い大作の実況の合間に、1時間ほどで終わるゲームを挟んだりすることが多いんです。『8番出口』なんかは、まさにそこにはまった作品ですね。
実際のプレイ画面:8番出口
© KOTAKE CREATE Licensed to and Published by Active Gaming Media Inc.
「自分でもやりたくなる」ゲームの条件
——実況で見たゲームを「自分でも遊びたい」と思わせるポイントはどこにあるのでしょう。
アクションゲームについては、任天堂の宮本茂さんが言うように「後ろで見ていてやりたくなるゲームがいいゲーム」です。操作したときの手触りをどこまで突き詰められるかだと思います。
一方でノベル系は、実況を見ると終わってしまう課題がつきまといます。その解決策になるのが、ランダム性やローグライク的な要素です。『8番出口』のように短時間で遊べる作品や、『グノーシア』のようにプレイヤーごとに展開が変わる作品は、実況で知られた後も「自分で遊んでみたい」と思ってもらいやすいです。
ただ、それを意識して開発したのかを、『グノーシア』の開発元プチデポットの代表を務める川勝さんに聞いたら、「意識していない、結果論だ」と言っていました。やはりインディーゲームは、作りたいものを作るのが最優先であるべきなんです。『8番出口』にしても、200万本売れるとは誰も思わなかったでしょうし、再現しようと思ってもできません。再現性がないからこそ面白いんです。
実際のプレイ画面:グノーシア
©Petit Depotto. Licensed to and published by Active Gaming Media Inc.
大作とインディーは、まったく別の魅力がある
——大作ゲームとインディーゲームの違いは、どこにあると感じますか。
インディーゲームは、イメージとしては短編小説みたいなものです。小さな世界がこだわりを持って作り込まれている。一方、大作は遊園地のようなもの。いろんな遊びが詰め込まれていて、フリーパスを買って一日中遊べるイメージです。同じゲームといっても、完全に別物だと思います。比較して選ぶものではないかもしれませんね。
インディーゲームの魅力は、やはり作家性です。1人で作っていることも多いので、その人が考えたものがすべてに反映されます。それから、新しいジャンルや、今までにない体験、見たことのない世界観が次々に出てくることも魅力的なポイントです。
私が大作よりインディーの宣伝・販売をやりたいのは、300人が束になっても1人の天才には勝てない、ということが起こりうるからです。『マインクラフト』も、もとは1人で開発したゲームシステムでした。会社では絶対に通らないアイデアは、止める人がいないからこそ生まれます。任天堂の元社長・山内溥さんが「市場は俺たちが作るんだ」と言ったように、新しいものさえ作れば市場は切り開かれるんです。私はそういうものが見たいと思っています。
自分に合うインディーゲームの探し方
——この記事を読んで興味を持った人は、面白いインディーゲームをどう探せばいいでしょう。
実況配信が好きなら、その配信者が遊んでいるほかのゲームを見ていくといいと思います。趣味が合うはずですから。あとはパブリッシャーごとに追っていくのもおすすめです。好きなゲームのパブリッシャーを調べて、そこの作品を見ていくと、好みのものが見つかりやすいでしょう。BitSummitのようなイベントで発掘するのもいいですね。
以前ある人と話していて「インディーゲームのいいところは、探す楽しさそのものにある」と言われて、なるほどと思いました。Steamのレビューが多い順に遊んでみたり、ディスカバリーキューが意外といいものを勧めてくれたり。探す工程自体が面白いと思えるようになったら、もうインディーゲームの沼にはまっていると言ってもいいかもしれませんね。
インディーゲームは、どこへ向かうのか
——今後の展望をどう見ていますか。
いまやインディーと大作の境目もほぼなくなってきたと思えるほど、インディーゲームは盛り上がっています。クリエイターが1人で作っているゲームも、50人規模の企業のゲームも、同じ「インディー」として並んでいる状況です。そろそろ「インディーゲーム」という概念自体が消えるんじゃないか、と思うくらい定義が難しくなっています。
気になっているのは、盛り上がるほどビジネス的な観点が強くなることです。最近、「このジャンルが売れているから、こういうゲームを作りたい」という相談が本当に増えました。『Slay the Spire』みたいな、『Vampire Survivors』みたいな、という企画が山ほど届きます。市場があるからみんな集まってくるのはわかりますが、私はそれが少し苦手なんです。もともとインディーゲームには、そういう“大人の世界”とは違うところから出てきた面白さがあったと思うので。
——かつてインディーは、カウンターカルチャーだったと。
そうですね。たとえば、「2Dはもう売れない」とメーカーの多くが3Dに向かったことがありました。ユーザーはまだまだ2Dをやりたいのにどこも出さない。そこにインディーが出てきて2Dの需要を取ったわけです。音楽でいえばロックのようなカウンターだったんです。でも今は、そのロックがポップになってしまった。でも、だからこそ、また次のカウンターを放つ存在が出てくるんじゃないかと期待しています。
今年のBitSummitは、本当にレベルが上がっていました。毎年そうですが、今年は特に全部が80点以上という感じで。ただ、それゆえに全部が埋もれてしまうんですよね。ここから頭ひとつ抜け出すのは、本当に難しい市場になりました。だからこそ、私たちは『8番出口』が200万本売れたから次は500万本を、とは考えていません。これからも、誰も知らないようなインディーゲームを応援し続けたい。それが一番のカウンターになるんじゃないかと思っています。
大作に疲れた人にこそ、インディーゲームに触れてほしい
——最後に、これからインディーゲームに触れてみたい読者へメッセージをお願いします。
PLAYISMでは、本当にいいゲームを取りそろえてきた自負があります。大作にはない驚き、新鮮な体験が詰まっているんです。インディーゲームをどう探せばいいか困ったら、まずはうちのラインナップを見て、気になるものから始めてもらえたら嬉しいです。パソコン1台あればできるので、ハードルも低いです。
私自身、社会人になって一度ゲームから離れています。どれもオープンワールドで長く感じて、1週間空けると操作方法も忘れてしまう。でも、インディーゲームを遊んだときに「ゲームってこんなに面白いものだったのか」とあらためて感じたんです。
その驚きを味わい続けたいというのが、私の原動力です。大作に少し飽きた人や、ゲームから離れていた人にこそ、ゲームの魅力をもう一度知ってもらいたいですね。
